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東京高等裁判所 昭和50年(う)454号 判決

被告人 山崎義則

主文

原判決を破棄する。

本件を横浜地方裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人高野洋一提出の控訴趣意書及び同補充書に記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官笹岡彦右衛門提出の答弁要旨と題する書面に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

論旨に対する判断に先だち、職権をもつて調査するに、原判決認定の「罪となるべき事実」は、その記載よりみて横浜駅当務駅長土橋太三郎を脅迫行為の客体とする趣旨に解されるが、同人に告知された加害の内容については、横浜駅建物、備品、乗降客等に爆破によりどのような危害が加えられるかも知れない旨を告知したとしか認定しておらず、刑法二二二条一項の構成要件に定める右土橋個人の生命、身体、自由、名誉又は財産に対する加害の告知があつた趣旨なのか否か判文上不明である。

さらに右の点について起訴状の公訴事実の記載をみるに、その記載は原判示と同一であつたのであるから、原審裁判所としては起訴状の公訴事実に記載された害悪の告知の記載が右土橋の生命、身体、自由、名誉又は財産のいずれに対する害悪の告知となるかにつき検察官に釈明したうえ実体審理に入るべきであつたところ、これを看過して実体審理をすすめ、起訴状記載の公訴事実どおりの認定をした原判決は、審理不尽の結果、公訴事実が脅迫罪に該るかどうかを判然とさせないまま結審して理由不備の有罪判決をしたもので、破棄を免れない。

よつて、論旨について判断するまでもなく、刑訴法三九七条一項、三七八条四号、三七九条により原判決を破棄し、更に審理を尽させるため、同法四〇〇条本文により、本件を横浜地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 時國康夫 奥村誠 佐野精孝)

参考

(原審の罪となるべき事実)

被告人は、昭和四九年一二月一三日午後一一時一二分ころ、神奈川県横浜市神奈川区三ツ沢上町三〇番三四号とよふじ荘内自室において、その場に架設してあつた電話機をもちい、同市中区日本大通一所在、神奈川県警察本部警ら部通信指令課通信指令室にダイヤル「一一〇番」を回わして電話をかけ、応待に出てきた神奈川県巡査部長米満恒男に対し「横浜駅前爆破する、駅前爆破」と申し向け、情を知らない同人を介して、同日午後一一時二〇分ころ、同市西区高島二丁目一六番一号所在、日本国有鉄道横浜駅当務駅長土橋太三郎(四九年)に対し、その旨電話により通報せしめ、もつて、同駅建物、備品、乗降客等に爆破によりどのような危害が加えられるかも知れない旨告知させて右駅長を脅迫したものである。

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